前編に続き、佐藤裕太の今までとこれからについて、ビューティ・ディレクターの麻生綾さんによる直球インタビュー記事をお届けします。
“THREE”に惚れる。
―最初の化粧品メーカーには、どのくらい在籍されたのですか?
「7年半くらいでしょうかね」
―大変……
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だった分、きっと愛着も思い入れもあったでしょうに。THREEのあるACRO社に移られたきっかけは?
「あるとき、現ACROの石橋 寧会長に『新しいブランドを立ち上げるんだけど、一度見に来ない?』とお声がけいただいたんです。そこでディレクターに就かれるというRIE OMOTOさんのメイクデモの見学に行きました。それが本当に衝撃的で」
―どのようにですか?
「あくまで僕の印象なのですが、それまでの僕の師匠のメイクは、すごく綺麗な絵を描くイメージ。それに対してRIEさんは、何か立体模型を作るイメージ。どちらがいい悪いではなく、まったく新しい刺激だったから、ただただ驚きました。単純にRIEさんの真似をしたくなった、実際にそんなメイクをしてみたくなったということもあります。これをたくさんの人に伝えたいな、と。あと、石橋会長がやはり魅力的で」
―会長、夢見る夢男さんですからね(笑)。夢を見て語るだけでなく、実現してしまうところがすごい方なんだけど。
「まさに。それでACROに入社しました。2009年のことです」
ブレイクスルー、そして変わらないコンセプト。
―新天地はいかがでしたか?
「正直、最初の3年くらいは発信に苦労しましたね。僕が衝撃を受けたRIEさんのメイクを、うまく伝えられなかったというか……。製品自体は素晴らしくよいものなのに、もどかしかった。それが3年目くらいから、徐々にですが手応えが出てきまして。2011年の4D アイ パレット(現4D プラス アイ パレット)の発売がきっかけでした」
―ああ、確かにこの製品の登場はよく覚えています。濃い色から順につける……という、通常のアイシャドウパレットとは真逆のステップが新鮮でした。
「アンダーカラーを先に仕込んだほうが、まぶたにナチュラルに立体感がつくれるんですよ。でもね、これ、相当前から言ってたんだけどな(笑)。THREEのメイクって“奥行きを出す”メイクなんです。その人がもともと持っている骨格を生かし、そこに光と影のコントラストを綺麗に表現する。だから、製品に透明感がないとそれが実現できないんです。ベストコスメなどの受賞でようやくその方法論が認知され、同時にお店の数も一気に増えた時期でした」
―このインタビューの前に、佐藤さんのメイク連載「THREE LOVERS」をあらためて拝見したのですが、佐藤さんはいい意味で“作品”をつくられていませんね。
「はい、まさにそうです」
―ときにこうした連載は“作品”……悪く言うなら、メイクアップ・アーティストの自己満足になってしまうことも少なくないのに。
「THREEは立ち上げのときからブランドの満足ではなく、あくまで“その人らしさ”を追求していますから。ディレクターのRIEさんがつくる半歩先、一歩先のイメージやアイデンティティを、“ウエアラブル=日常着”にするのが、僕の一番の仕事と思っています」
―佐藤さんは、RIEさんと我々“実際に使う人”の間に入って、モードを噛み砕いてくれる人。
「製品自体もですが、僕が本当に伝えたいのはその使い方なんですよ。だからお客さま一人ひとりと対面できる実店舗は本当に大切。オンラインショップだけじゃなくてね。THREEに興味を持ってくれた方に実際に会って、顔を見て、話して、似合うメイクを決めていきたいし、製品と製品の掛け合わせのテクニックも伝えられる。また、単に絵を描くのと違ってメイクは人に施すものだから、こちらが丁寧に気持ちを込めた分だけ、すべてこちらに返ってくるんですよ。それが楽しくてね。話の最初のほうにも出てきましたが、結局コミュニケーションなんだと思います、大事なのは」
「世界中の人にTHREEを使って欲しい」
―佐藤さんにとってTHREEとは? あらためてどんなブランドですか?
「いざ言葉にするとなると難しいですね(笑)。他ブランドとの一番の違いは『これじゃなきゃ、と思える心地よい生活必需品』であり、あとはやはり製品の力かな。一つひとつにかける時間と手間は、本当にすごいですよ。RIEさん、NYから来日している時間の半分以上は、製品の工場に詰めているもの。工場の社長さんもおっしゃっていました。『ディレクターがこんなに工場を訪ねてくるのは稀。RIEさんみたいな人はなかなかいないよ(笑)』と」
―佐藤さんの夢は?
「これはもう、はっきりしていて、世界中の人にTHREEを使ってもらうことですね。タイや香港、台湾などアジアには出ていますが、北米やヨーロッパはまだ。THREEの魅力を自分たち自身の手で広められたらいいなと思っています。そのためにはもっと、ブランドが体力をつけて強くならなければダメなので、前を向いて、常に5年後10年後を意識して活動しています。目標は、メイクだけじゃなくシャンプーでもスキンケアでもいいですから、最低、一家に一つはTHREE製品を(笑)。メイクでいえば、やはり実際に手に取って触ったり試したりして欲しいから、各国に店舗がないとね。もちろん、使い方も教えたい。そんな夢がきちんと形になるのがこのブランドのすごいところなので、頑張りますよ」
Artist’s Favorite 「これぞTHREE」という製品。
「本当は全部選びたいところですが、シマリング グロー デュオかな。“その人らしいメイク”には温度感が大事なのですが、このパレットでTHREEのベースメイクのコンセプトでもある、血色感(温かさ)・ツヤ・透明感が出せるんです。目頭、鼻筋、頰の上などどこにでも使えるし、これをつけた途端にTHREEの顔になります」
〈佐藤 裕太〉
THREE グローバル メイクアップアーティスト。国内外でTHREEのメイクアップショー、ワークショップ、メイクレッスンを行う一方で、各国のエディトリアルやコレクションバックステージでも活躍。社内ではメイクアップスペシャリスト育成プログラムにも力を入れている。THREE TREE JOURNALでは2014年からメイクアップポートレート連載THREE LOVERSのメイクを担当。https://tree.threecosmetics.com/journal/three-lovers/
〈麻生 綾〉
ビューティ・ディレクター/美容編集者。『25ans』『婦人画報』(ハースト婦人画報社)、『VOGUE JAPAN』(コンデナスト・ジャパン)各誌で副編集長を務めた後、2014年1月より日経BP社のビューティ誌『etRouge』編集長。美容モットーは「女は美味しそうでなくっちゃ。」「女は乾かしちゃいけない。」
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THREE グローバル メイクアップアーティスト 佐藤裕太のできるまで(後編)